顔の膿瘍

 

 

Michel Gruaz, with Esther van Praag, Ph.D.

警告: このページには一部の方に不快と思われる画像が含まれています。

過去には、うさぎの頬に大きな膿瘍(アブセス)ができると、原因はHypoderma bovis(ウシバエ)寄生による皮下腫瘤だと信じられていました。牛や鹿の背中にできるしこり(無菌性アブセス)には幼若なウジが含まれています。しかしながら、うさぎの顔のアブセスはより深刻なものです。主な原因は歯科疾患および、スタフィロコッカス症やパスツレラ症のような細菌感染なのです。

アブセスとは液体や膿が溜まったポケットであり、化膿性細菌への感染と、続発する細胞破壊により形成されます。内容物は、膿、貪食性白血球の死骸、壊死細胞、生きた/死んだ細菌です。膿の貯留量が増えるとポケットのサイズは大きくなります。被包期には、アブセスは周囲組織と血流から独立して存在しています。アブセスが無処置のままであると、体内で破裂したり、皮膚側へと破膿します。細菌と、それらが産生する毒素が血中へと放出され、生命を脅かすこととなり(うさぎでは敗血症の治療が困難なためです)、疼痛を伴います。

アブセスで苦しむ多くのうさぎには、パスツレラ症やその他の細菌(例:ストレプトコッカス、シュードモナス、紡錘状菌)に感染した病歴があります。顎のアブセス形成には遺伝的素因(不正咬合、臼歯の異常過長)が関与している可能性がありますが、歯折による歯根の問題や、牧草片のような異物が臼歯間に挟まるといった問題も関与しています。細菌は歯肉組織と歯の隙間から侵入して、歯根へと到達します。しばしば、スタフィロコッカス属菌やパスツレラ属菌が分離されますが、フソバクテリウム属菌、アクチノミセス属菌、ストレプトコッカス属菌(人の歯にも感染します)なども原因菌となり得ます。

アブセスの存在に対して、特異的な臨床症状というものはありません。初期には下顎骨に沿って膨隆が触知されるかもしれません。アブセスは硬かったり、可動性のある柔らかいペースト状に感じられることもあります。アブセスがあっても、うさぎでは他の動物種のように痛みを起こすことはないようです。アブセスの成長は通常早く、数日のうちに大きさが2倍になることがあります。

  

MediRabbit

MediRabbit

7歳半のメスのレッキス種のFloraは、エンセファリトゾーン(Encephalitozoon cuniculi)感染からくる後肢の麻痺に苦しんでおり、さらに下顎切歯根に根尖膿瘍ができました(矢印)。膿瘍は24時間以内にサイズが2倍になることがあります!針吸引サンプルを動物検査ラボにて調べた結果、骨肉腫という診断が返ってきました。実際には、病変は根尖膿瘍が周囲の顎骨に播種したもので、骨融解を起こしていました(骨髄炎)。

この段階はうさぎが通常通り食べ続けているため、しばしば見逃されてしまいます。そして徐々に異常な膨隆が目立つようになり、食欲が低下し、飲水量が増え、時には発熱を伴います。

Caroline Charland

無治療の顔のアブセスが破裂してしまい、乾燥した状態で保護されたうさぎ(左)。拡大図(右)。

原因の特定ー診断

頭部の視診と触診の結果、上顎ないし下顎のアブセスが見つかった場合には、うさぎの口腔内を注意深く調べる必要があります。うさぎを鎮静下あるいは麻酔下で調べるのが一番です。

 

Akira Yamanouchi

うさぎを麻酔(左上)することで詳細な像が得られます

Akira Yamanouchi

うさぎに麻酔をかけたら、詳細で高解像度のレントゲンを、いろいろな方向から撮影します

Akira Yamanouchi

耳鏡を使っての口腔内検査

Akira Yamanouchi

臼歯の視診

Jen Smuck

内視鏡を用いた歯の検査。歯の黄色い色素沈着は正常で見られます。

(Healthy Teeth (inside mouth, right side) = 健康な歯(口腔内右側)

Unhealthy Teeth, Presence of pus, (inside mouth, Left side) = 異常な歯、排膿が見られます(口腔内左側)

Healthy Teeth, aligned well (inside mouth, right side) = 健康な歯、正常な歯列(口腔内右側)

Unhealthy Teeth, Unaligned (inside mouth, Left side) = 異常な歯、不整な歯列(口腔内左側)

うさぎに麻酔をかけることで不動化し、レントゲン画像がぶれないようにします。理想的にはレントゲンを様々な方向から撮影(背腹像、ラテラル像、斜位像)します。レントゲン画像は出来る限り非のない品質で、高解像度となるようにします。歯科疾患の情報(例:骨変形、歯根の問題、アブセスの存在、感染の顎骨への播種)を得るためには、CTスキャンを撮影することで診断の精度が上がります。すなわち歯科疾患の局在を詳細に描出し、予後判定、治療結果の予測ができるようになります。

Cheryl Morales

切歯と臼歯に複数の不正咬合があるドワーフうさぎの頭部レントゲン像。右ラテラル像(左)および、腹背像(右)。

 

顎骨にも感染が起こり得ます。小口径の針をつけたシリンジで、サンプルを吸引し、病理検査に提出します。残念ながら、骨髄炎を伴う歯根アブセスを骨肉腫(骨の腫瘍。うさぎでは稀)と誤診されてしまうことがあります。誤診してしまうと、適切な治療の開始と抗生物質投与が遅れてしまい、悲惨な結果となってしまいます。

 

治療

顔のアブセスの治療は難しく、時間を要し、また術後管理のために飼い主の協力と献身的な看護が必要です。再発もしばしば起こります。

膨隆が触知されるものの、サイズが小さければ、抗菌薬による治療を試みます。ある症例では、うさぎの歯が抜けてできた孔に、膿が満ちていました。マルボフロキサシンの連日投与と、週1回の長時間作用型ペニシリンの注射によって、この症例は治癒しました。もしうさぎがペニシリンに対して過敏症があるようなら、メトロニダゾールで代用することもできます。しかし、全身的な抗菌薬の使用は必ずしも有効ではなく、より侵襲的なアプローチが必要になることがあります。

最も安全なアプローチは、アブセス包と、周囲の感染組織および/または壊死組織の完全な切除です。手術にあたっては、深部組織に存在し、アブセスと連絡している全ての線維性通路が切除されていることを確認します。アブセス包が切除できない場合には、カテーテルを用いて消毒薬(クロルヘキシジンやポピドンヨード)で洗浄します。郭清した空隙には抗菌薬を含浸させた製品を充填します。その他の方法として、術後管理と治癒促進のためにドレーンを設置します。

 

Dr. Gil Stanzione

進行した歯科疾患が見られるうさぎの頭部の、左ラテラル(左)と右ラテラル像。右下顎第三後臼歯付近(矢印)にアブセスが存在しています。

Dr. Gil Stanzione

頭部の背腹像で、右第三後臼歯付近(矢印)のアブセスが見られます。

 

 

 

Dr. Gil Stanzione

アブセス切除手術。膿の様子(左)と、感染を起こした被包および臼歯の除去(右)。その後、空隙のデブリードマンを行い、アミカシンを含浸させたPMMAビーズを埋入しました。術後管理として鎮痛薬のブプレノルフィン(Buprenex)および後にメロキシカム(Metacam)を使用しました。また1ヶ月間、毎日ペニシリンを注射しました。

 

外科的切除が不可能な場合には、アブセス包を注意深くデブリードマンします。全ての膿、歯や骨の断片、壊死組織片を取り除いて、治癒を促進します。アブセス包には、抗菌薬を含浸させたPMMAビーズ、あるいはセルロースのスポンジや水酸化カルシウムを充填してから縫合します。充填の詳細については以下をご覧ください:うさぎの皮膚膿瘍。もう一つの方法として、切開創縁を皮膚に縫い付けて(造袋術)、開放創にするやり方があります。するとクロルヘキシジンやポピドンヨードによる洗浄、アブセス腔内の乾燥を保つ製品(例:デキストロース、医療用ハチミツ、マヌカハニー)の充填、といった日々の管理が容易に行えます。治癒過程では、アブセス腔内がだんだんと瘢痕組織で充填されていき、治癒します。

骨髄炎が起きている場合、顎骨への浸潤度合いを評価しなくてはいけません。感染が複数の臼歯に及んでいる場合には、予後は注意を要しますし、うさぎを人道的に安楽死させる選択肢も考慮に入れます。治療には、骨にも分布し得る、細菌培養と感受性試験の結果に基づいて選択した、抗菌薬の投与を全身的に行います。うさぎで安全に使用できる抗菌薬の選択肢は限られています。治療は徹底して、長期間(4から6週間)、実施します。抗菌薬を投与しても感染を制御できない、あるいは骨破壊が進行するような場合には、外科的なデブリードマンを考慮します。

外科処置後、そして回復期には、うさぎに鎮痛薬を投与します。いくつかの製品(エキナセアを含むクリーム/ゲルやHEALx Soother Plus)には創傷治癒を促す成分が含まれています。

アブセスの治療はしばしば困難を伴い、100%治癒が望めるものでもありません。そのため、術後のフォローアップが推奨されます。

Acknowledgement

A big thank you to (alphabetic order) Caroline Charland (www.BunnyBunch.org), to Michel Gruaz (Suisse), to Debbie Hanson (USA) and her rabbit Stella, to Dr. Cheryl Morales (Prestonwood Animal Clinic, Houston, TX, US), to Bonnie Salt (USA), to Tal Saarony (USA) and her rabbit Motek, to Dr. Gil Stanzione (Dakota Veterinary Clinic, White Plains, NY, US), to Jen Smuck (USA), and to Akira Yamanouchi (Veterinary Exotic Information Network, Japan) for the permission to use their pictures.

Further information

Capello V. Case Report: Use of HEALx Soother Plus in Postoperative Treatment of a Dental-related Abscess in a Pet Rabbit. http://www.exoticdvm.com/mammal

Capello V, Gracis M, Lennox A. Rabbit and Rodent Dentistry Handbook. Lake Worth - FL, USA: Zoological Education Network; 2005.

Harcourt-Brown F. Textbook of Rabbit Medicine. Oxford, UK: Butterworth-Heinemann; 2001.

Meredith A, Flecknell P. BSAVA Manual of Rabbit Medicine and Surgery. Cheltenham, UK: British Small Animal Veterinary Association; 2006.

Quesenberry KE, Carpenter J. Ferrets, Rabbits, and Rodents. St-Louis-MO, USA: Saunders; 2004.

Van Praag E, Maurer A, Saarony T. Skin Diseases of Rabbits. Geneva, CH: MediRabbit.com; 2010.

 


 

e-mail: info@medirabbit.com