うさぎの上部気道疾患
Esther van Praag, Ph.D. – translated by Atsushi
Fukuda, DVM
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近年までうさぎの呼吸器疾患は、細菌のパスツレラ・マルトシダと関連があると考えられてきたため、パスツレラ症と呼ばれていました。こうした診断は完全に時代遅れであり、罹患うさぎから得られたサンプルを培養すると様々な細菌が存在することが明らかになりました。ボルデテラ・ブロンキセプティカ、スタフィロコッカス属、シュードモナス属、クラミジア属、アシネトバクター属、モラキセラ・カタラリス、マイクプラズマ属、などが見つかっています。 また非細菌性の要因によってもうさぎの呼吸器疾患は発生します: ·
ウイルス性ーポックスウイルス、ミクソーマウイルス(参照:ミクソマトーシス)、ヘルペスウイルス(参照:うさぎのヘルペスウイルス) ·
機械的(牧草の破片など)あるいは腫瘍(ポリープ、悪性腫瘍)による閉塞 ·
心血管系に起因するもの; ·
過敏症(例ートイレから揮発したアンモニア、タバコの煙、ペレットのほこり、花粉)。うさぎではアレルギー反応は稀です。 ·
異物の存在.
呼吸器疾患は次のように分類されます: ·
上部気道疾患ー特徴として、鼻および眼からの分泌物、くしゃみ、いびき、稀に発熱;
·
下部気道疾患ー特徴として食欲不振、沈鬱、呼吸困難(呼吸異常ないし呼吸苦)、チアノーゼ(舌、唇、歯肉が酸素欠乏により青く変色すること)、発熱ないし低体温、が見られます。下部気道疾患は、呼吸困難および発咳を伴って急性に発現するため、長い間、発見されずにいました。呼吸苦が生じると、随伴して両側性眼球突出と、瞬膜(第三眼瞼とも呼ばれます)突出が起こります。 うさぎの呼吸器疾患の原因に関しては、こちらをご参照下さい:呼吸困難あるいは呼吸時雑音の鑑別診断
臨床検査
呼吸器疾患が疑われた際には、以下の項目をチェックしましょう: 1. うさぎの呼吸数をチェックします(通常、毎分30から60回)。呼吸数がそれより多くても正常ですが、少ないのは異常です。 2. 鼻腔からの漏出物をよくチェックします。うさぎはよくグルーミングを行う動物で、絶えず体をきれいにしているために、はっきりと分からないことがあります。時には、前肢の被毛が毛束になっていることが、鼻漏の徴候であることがあります。. 3. 結膜炎と涙囊炎(膿性目脂あるいは流涙)がないか眼を調べます。 4. 顔と顔の骨を調べ、不整がないか、アブセスや腫脹がないかを調べます。 5. 鼻鏡検査。 6.
鼻腔深部と気道からサンプルを採材し、細菌培養に提出します。鼻腔に関しては、感染は片側に限局していることがあるため、両側で実施します。フレキシブルワイヤーの先端にアルギン酸カルシウムのチップがついたスワブで、鼻腔スワブを行います。鼻腔ないし鼻咽頭部へと、1から4cmスワブを挿入します。代替法として、鼻腔吸引を行う方法もあります。
7. 耳の感染を調べます。頭部レントゲンを撮影し、中耳および外耳の不透過性亢進があるか調べます。耳の感染はしばしば、気道感染と関連しており、細菌はユースタキー管を通して伝播しますが、必発ではありません。しばしば、うさぎは疼痛により食欲が減退します。. 8.
好中球増多(好中球の血中レベルが上昇すること)、あるいは白血球減少症(血中の白血球数が減少すること)のような血液学的変化を明らかにするため、血液塗抹の顕微鏡検査と、CBCを実施します。二次的な臓器不全の検出にも役立ちます。 9. 心疾患が疑われる際には、レントゲンと心電図検査を行うことで、心拡大の検出に役立ちます。 10. 胸部レントゲンは、細菌感染(不透過性の亢進)、気管支炎、マス(アブセスや腫瘍)の存在、肺浮腫(異常量の液体が貯留した状態)が肺や心臓の周囲に起こっていないか検出するのに役立ちます。. 病原性細菌
パスツレラ・マルトシダは感染力が強いものの、一部のうさぎではこの細菌に抵抗性があると思われます。パスツレラ属菌が存在する場合、即時に治療を開始し、しかも積極的に長期間治療を続けます。症状が消えてからも、少なくとも2週間は治療を継続しましょう。うさぎが完全には回復せず、その後生涯に渡って抗菌薬の継続が必要になることもあります。 パスツレラ属は、うさぎにいくつもの難治性疾患を引き起こします。一例を挙げると: ー 胸膜炎(肺周囲組織の炎症); ー 肺炎; ー 心膜炎(心臓を覆う膜の炎症); ー 中耳炎あるいは内耳炎(中耳あるいは内耳の感染症); ー 涙囊炎(涙管の感染); ー 結膜炎; ー 皮下のアブセス; ー 乳腺炎(乳腺への感染) 臨床症状は、くしゃみ、咳、鼻漏を含めて複数に渡ります。
このステージから、胸膜肺炎や心膜炎を伴った下部気道疾患へと進行することがあります。 うさぎとモルモットを同時飼育している場合に、典型的に見つかる細菌は、ボルデテラ・ブロンキセプティカです。うさぎでは無症状のまま鼻腔内に存在していて、発病することはありません。しかしうさぎにボルデテラが存在することで、パスツレラ属菌への感受性が高まり、気管支肺炎のような感染へ至る可能性が増大します。ボルデテラはモルモットでは致死的な感染を起こします。 アシネトバクター属菌は通常、病原性の低い細菌であり、肺炎を起こすことは稀です。アシネトバクターが検出される場合、通常は感染を起こしているのではなく、その動物に生着しているだけです。生着が主であるため、アシネトバクター属が起因菌であるのか、単に他の病原体の存在を隠してしまっているのかを見極める必要があります。
治療
呼吸器疾患は、ウイルス感染、機械的あるいは腫瘍による閉塞、過敏症との鑑別が必要です。もしいずれも見つからず、細菌感染が除外できたら、罹患うさぎに抗ヒスタミンあるいはコルチコステロイド(3から5日以上の連用をしない)を投薬します。 上部気道感染症の治療を成功させるには、積極的かつ長期的な治療が必要です。しばしば、複数の抗菌薬を組み合わせて使用します。例えばエンロフロキサシンまたはシプロフロキサシンの経口投与に加え、ゲンタマイシンを主剤とした点鼻薬の併用を行います。 スルファジアジン-トリメトプリム合剤は、消化器系、呼吸器系、尿路系の感染などに使用される殺菌的な抗菌薬です。うさぎに感染する細菌に対して広範囲な有効性を持っており、例えばパスツレラ属菌、クロストリジウム属菌、スタフィロコッカス属菌、ボルデテラ属菌などに有効です。長期間、低用量で使用することができます。うさぎでは効果に乏しいことがしばしば見られ、また治療を中止すると症状の増悪が見られることもしばしばです。これはおそらく、トリメトプリムのうさぎでの血中半減期が40分と短いことによるものでしょう。 エリスロマイシンの誘導体である、アジスロマイシンは、うさぎでは副作用なく使用でき、(エンロフロキサシン同様に)ボルデテラ属菌に対する治療に非常に効果的です。アジスロマイシンのうさぎでの用量(50mg/kg, PO, SID)は、他の小動物(犬、猫)での用量(5-8mg/kg)と比べるとはるかに高用量です。治療期間は通常7日間とし、治療効果を評価して治療期間を延長するか決定します。 セファロスポリンは殺菌的な広域抗菌薬で、骨、泌尿生殖器系、皮膚、軟部組織および呼吸器(パスツレラ属菌に関連したもの)の細菌感染症などの治療に用いられます。セファロスポリンにはいくつかの世代があり、それぞれがターゲットとする菌群が異なっています。注射薬として使用する分には非常に安全性の高い薬剤ではありますが、潜在的に腎毒性のある薬でもあります。 シュードモナス属菌に対する治療は、最も治療が困難な感染症のひとつであり、積極的に行う必要があります。シュードモナスは多くの抗菌薬に対して多剤耐性があることが知られており、薬剤感受性試験を必ず実施します。最も治療効果が高いのは抗菌薬を組み合わせて用いる方法です。例えば、 ·
エンロフロキサシン+ゲンタマイシン点鼻薬; ·
エンロフロキサシン+アミカシンのネブライジング(もし感染が上部気道であれば、エンロフロキサシン+ドキシサイクリン); ·
セファロスポリン/トブラマイシン(双方、注射薬のみの使用とすること); ·
アジスロマイシンはシュードモナス属菌への効果がありません; その他の抗菌薬で、うさぎに安全に使用でき、呼吸器疾患で良好な成績を示しているのもには、以下のものがあります: ·
アミカシンを皮下注射またはネブライジング。この方法はグラム陰性菌の治療に用いられます。 ·
エンロフロキサシン(注射で用いる場合、無菌性アブセスを形成することがあります。滅菌生理食塩水で50:50に希釈することで、こうした問題を回避できます。) ·
クロラムフェニコール(稀に食欲が低下することあり) ·
ゲンタマイシンを注射、滴下、またはネブライジング。グラム陰性菌の治療に用いられます。 より詳細な情報は、以下をご参照下さい:うさぎに「安全」な抗菌薬
長期的な抗菌薬投与の他に、平行して行える治療法には以下のようなものがあります: ·
鼻涙管洗浄; ·
生理食塩水、粘液溶解剤、抗菌薬のネブライジング。鼻炎、副鼻腔炎、肺炎などの症例に対して、薬剤を気管支と肺の奥深くまで到達させるのに役立ちます。 ·
輸液療法と補助給餌(うさぎが飲食しない場合)。 もし呼吸器疾患に随伴して結膜炎および/または涙囊炎が見られる場合、抗菌薬の局所投与(例:エンロフロキサシン、ゲンタマイシン)を治療プロトコールに追加します。
謝辞
この記事に掲載された写真とイラストの使用許諾を下さった、Michel Gruaz
(スイス)、Kim Chilson
(アメリカ)、Tal Saarony (アメリカ)、Dr Katleen
Hermans(ベルギー、ゲント大学、家禽と特殊動物のクリニック)に深謝申し上げます。 Further
Information
Aoyama T, Sunakawa K, Iwata S, Takeuchi Y, Fujii R. Efficacy of short-term treatment of pertussis
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